熊本地震から10年。阿蘇神社で見つけた「受け継ぐ」ということ
- 2026.06.10 | 体験

熊本地震で失われた阿蘇神社の象徴
2016年4月に発生した熊本地震。
多くの方の記憶に残っているのが、熊本城の被害とともに報道された阿蘇神社の楼門(ろうもん)倒壊ではないでしょうか。この地震により、阿蘇神社では楼門と拝殿が倒壊しました。
阿蘇神社は全国に約500社ある阿蘇神社の総本社であり、2000年以上の歴史を持つといわれる熊本を代表する神社です。
震災直後に報道された倒壊した楼門の映像は、多くの人に衝撃を与えました。
震災から10年を迎えた今、実際に境内を訪れてみると、そこには多くの参拝者の姿がありました。
復旧した楼門を目当てに訪れる方や、海外からの観光客の姿も見られ、阿蘇のまちは少しずつ以前の賑わいを取り戻しているように感じます。
そして境内に目を向けると、復旧した楼門だけでなく、石碑や願かけ石など、地域の歴史や人々の想いを受け継いできた痕跡が数多く残されていました。
震災から7年半。楼門復旧の舞台裏

熊本地震で倒壊した阿蘇神社の楼門は、約7年半の歳月をかけて復旧されました。
この楼門は1849年(嘉永2年)に建立された熊本県指定重要文化財で、江戸時代末期の建築様式を今に伝える貴重な建造物です。
復旧工事で特に注目されたのが、倒壊した部材の再利用でした。
楼門の倒壊後、回収された約11,000点もの部材は、一つひとつ状態が確認され、補修や修復が行われました。
その結果、回収された部材の約72%が再利用されたと発表されています。
文化財の復旧というと、新しく建て直すことを想像しがちですが、阿蘇神社では震災前から受け継がれてきた部材を可能な限り活かしながら復旧が進められました。
また、復旧にあたっては外観を損なわない形で耐震補強も施されており、歴史的な景観を守りながら将来の災害にも備える工夫が取り入れられています。
石が語り継ぐ阿蘇の歴史
復旧した楼門に目を向けていると、境内のあちこちに石碑が残されていることに気付きます。
阿蘇神社の境内には、地域の歴史や文化を後世へ伝えるための石碑が数多く建立されています。

石碑の中には、明治時代に建立されたものや、当時の社会背景を今に伝えるものもあり、まるで屋外の歴史資料館のようです。紙の記録は失われることがありますが、石に刻まれた文字は何十年、何百年という時間を超えて残り続けます。
震災から10年を迎えた今も、これらの石碑は変わらず境内に立ち続け、阿蘇の歴史を静かに伝えています。
願いを託し続ける「願かけ石」

境内でひときわ目を引くのが「願かけ石」です。
現在ではパワースポットとして紹介されることもありますが、その歴史は古く、長年にわたり多くの人々の信仰を集めてきました。

阿蘇神社に伝わる案内によると、この石は古くから願い事を祈願する神石として大切にされてきたそうです。
・家内安全
・商売繁盛
・学業成就
時代によって願いの内容は変わっても、人が誰かの幸せを願う気持ちは昔も今も変わりません。実際に石の前に立つと、多くの人が足を止め、静かに手を合わせていました。
子どもたちの成長を見守る「せのび石」

阿蘇神社の境内を歩いていると、「せのび石」と呼ばれる石があります。
その名の通り、この石は子どもたちの成長にまつわる言い伝えが残る石として親しまれてきました。
昔から阿蘇神社は、地域の人々の暮らしと深く結びついてきた神社です。
家族の健康や子どもの健やかな成長を願う人々が訪れ、せのび石にも多くの願いが託されてきました。
現在でも、親子連れが石の前で足を止める姿を見ることができます。
願かけ石が「願いを託す石」だとすれば、せのび石は「成長を願う石」と言えるかもしれません。
人々の願いが集まる「高砂の松」

境内には「高砂の松」と呼ばれる縁結びの名所もあります。
案内板によると、男性は左回り、女性は右回りに松を回ることで良縁に恵まれると伝えられているそうです。
訪れた日も、多くの参拝者が足を止めて案内板を読み、記念撮影を楽しんでいました。
海外からの観光客の姿も多く見られ、日本の伝統的な信仰や文化に関心を寄せる様子が印象的でした。
震災から10年。
復旧した建物だけでなく、人々の笑顔や賑わいもまた、阿蘇神社に戻ってきていることを感じさせてくれます。
復興とは「受け継ぐこと」
阿蘇神社の復旧は、単に建物を元通りにする工事ではありませんでした。
大切なのは「残すこと」だけではなく、「受け継いでいくこと」。
倒壊した楼門の部材を活かしながら再建したことも、境内に残る石碑や願かけ石が今も人々の想いを伝えていることも、その根底には同じ考え方があるように感じます。
お墓や供養もまた、先人の想いを次の世代へ受け継いでいく文化の一つです。
熊本地震から10年。阿蘇神社を歩きながら、「受け継ぐこと」の大切さを改めて考えさせられる一日となりました。
